企画07 『一時間SS』  『桜守』

お題=『ロマン』か『幻想』。22:50スタート。23:50までにブログにUP。





  『桜守』



「知っているかい? この桜が、なぜこんなにも紅いのか?」

 立ち枯れたように見える桜の古木に、菊地真がそっと寄り添う。
 墨染めの和服を着たその姿は凛として美しく、その唇は花びらのようだった。

「知らないよ。けれど、なんだかとても恐ろしい風情。まるで、心を握り潰されるみたいに」

 乱れた息を整えながら、さながら夜魔のように笑う真の目を見て、雪歩は両の腕を抱く。
 寒くは無い。むしろ生暖かいような夜の風に、桜の花が散らされていく。

「君はまだ、知らないんだ。そして、知らなくていいんだ」
「そんな言い方しないで。私も、一緒に――」
「その先を言う君の心は、本物なのか?」
「え――?」

 ゆっくりと。ゆっくりと。その高台から菊地真が。
 花びらのように舞い降りる。
 大きな歩幅で、右足。そして刹那遅れて、左のつま先。
 長く尾を引く箒星の様に両の袖を従えて、その桜の精は雪歩に向かう。

「その薄氷のような言葉を紡ぐ君の唇は、本物なのか?」

 伸びる右手。袖から伸びる白い腕。そのさきに載る桜色の爪。
 その爪が、そっと雪歩の唇に触れた。

「本物だよ。だって、今、貴方が触っているもの」

 雪歩の両手が、そっとその手を包み込む。
 冷たい掌が、まるで蛤の殻のように真の右手を包み込む。
 そこから伸びた人差し指だけが、別の生き物のように雪歩の唇をなぞる。

「僕が触っているのかい? それは、幻かもしれない。あるいは君の願望かもしれない」

 閉じられる目。開かれる唇。
 その狭い隙間から這い出した赤い舌が、真の指を絡め取る。
 それは精を求める蛇のように指を伝って流れ、指はまるで鱗の様に濡れてゆく。

「ああ、そうか」

 菊地真の目に、涙の粒が浮かぶ。

「随分と待たせてしまったね。待ちきれなかったから、君はもう来てしまったんだ」

 両手で真の右手を押さえ、逃さず、雪歩の舌は真を絡め取る。
 真の爪はその柔らかな肉を傷つけながら、少しずつ温かな舌の上を流れてゆく。
 奥へ、奥へ。奥へ。

「君ももう、こちら側に来てしまったんだね。だからもう、戻れやしないんだ」

 涙の粒がこぼれた。
 それは銀色の尾を引きながら頬を伝い、空を舞って地面に消えた。

「御免よ。待たせてしまったね」

 真はさらに一歩、その歩を進め――。

「一人ぼっちで、寂しかっただろう。怖かっただろう」

 真はその左手で雪歩を抱き――。

「もう、大丈夫だよ。夜の闇も、朝の日差しも、もう君を傷付けやしないよ」

 ゆっくりと、その体を地面に横たえる。
 雪歩の髪は水面に浮かぶ彼岸花の様に広がり、その背中には、土の柔らかさに抱かれていた。
 柔らかい土だった。 

「さぁ、目を開けて」

 真はゆっくりと右手の指を引き抜くと、雪歩の両手を胸の上で絡めた。
 白いワンピースを着た雪歩の体に、ゆっくりと自分の体を重ねる。

「君が見る最後の景色だ。そして本当の君が見る最初の光景だ」

 そう言って、その白く強い指先で、雪歩の首を包み行く。

「桜が綺麗だよ」

 見上げる雪歩の目に、夜空を覆う霞のような桜の天井。
 そしてその下に、菊地真の笑顔があった。

「みんなも、待っているからね」

 そう言って、その白い指が少しずつ、柔らかな喉を締め上げる。

「みんな、一緒だね。真ちゃん――」

 そう呟いた雪歩の頬に、真の涙がポツリと落ちた。







  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -  -

「なんで最後で役名間違えるかなぁ……」

「すいませんっ! 監督、雪歩もこう、没入しすぎちゃって、って雪歩ー! どこいったんだー!」

「ぐすんッ」

テーマ : アイドルマスター
ジャンル : ゲーム

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No title

読ませていただきました。
なんとも背筋にゾクゾクとくるような描写に引き込まれながら、最後で雪歩wwwといった感じで楽しませていただきました^^
あまりの羞恥にあの言葉を言わずに埋まってしまったんですね、雪歩…
ニコマスにおいても幻想的な作品に出演することが多い真と雪歩ですから、映画として完成した暁には大層見映えのする作品になるのだろうと容易に想像できますね。
素晴らしい作品にてご参加ありがとうございました、おつかれさまでしたー^^

No title

拝読致しました。
これはすごく情景と心情が綺麗にミックスされていて、しかも若干のエロス加減を仄かに漂わせながら、とてもミステリアスな真と可憐な雪歩の対比が綺麗で、すっと物語に引き込まれる感じでした。
オチはほのぼのしてて、ああ、いつもの765プロか、と思わせてくれるのもとても良かったですw

御礼。

> coro様

コメントありがとうございます。

> なんとも背筋にゾクゾクとくるような描写

普段あまりやらない傾向の表現を盛ってみました。
梶井基次郎的な? 明治大正っぽい気配? くらいの。
一時間なので、気軽に行きつつ試行実験を。

今夜はなんとなく、真を書きたかったです。気分的に。

どうにもtwitterは補足が下手なのですが、機会あればまた参加したいです。
どうぞ、よろしくお願いします。

御礼。

> 微熱体温様

エロスですよねー。「指」「爪」「舌」「唇」あたり。
別に百合大好き人間という訳ではないのですが。

この作中の場合は、恋愛感情というよりは、
生命が引かれ合ってるイメージです。溶け合おう、一つになろう、と。
真はその悲劇から雪歩を守りたいのだけれど、
雪歩にとっては、取り残される事こそ本当の悲劇な訳で。
真も、最後にはそれを受け入れ、自分の手で雪歩を迎える訳です。
映画で言ったらクライマックス、あるいは最後のシーンですね。

オチに関してはどうしようか悩みましたが、一旦はあんな感じで。
ある意味、ズルい逃げ方なんですが、765プロでは良くある事。

地の文ではアイドルの本名出してますが、会話では一度も出ていませんし、
二人称が普段と違ったりもしているので、早いタイミングで「ドラマかな?」と
思われたかもしれませんね。

拝読致しました

 これぞ「幻想」といった感じのお話でした。ふおお素敵です…!
 桜守と真を組み合わせるそのセンスに脱帽です。文章全体に、淡く儚く、艶やかな空気が漂っており、読んでいるこちらが幻に迷い込んでしまった感覚さえ覚えます。
 文章表現がこれまたいい感じに色気があるんですよね…キリッと引き締まった色気といえばいいのでしょうか。どこかなまめかしくて、生物がもつ色気が立っている文章でした。…ふぅ。
 そんな雰囲気を崩さない、お約束のラスト。お約束とはいえ、それまでが息をのむほどの雰囲気だっただけに、雰囲気にのみこまれている読み手に一息つかせるのには最適のラストだったと思います。細部にまで心が行き渡ったガルシアさんならではのSSでした。
 素晴らしいSSをありがとうございました!

御礼。

>  これぞ「幻想」といった感じのお話でした。ふおお素敵です…!

読まれた方にそう言って頂けると、一安心ですね。
お題消化の基準を聞かずに書いていたので、文中に「ロマン」も「幻想」も出ず、
書き終わった後で「あれ? 条件満たしてるのか?」と不安になりましたもので。

> 文章全体に、淡く儚く、艶やかな空気が漂っており、
> 読んでいるこちらが幻に迷い込んでしまった感覚さえ覚えます。

普段あまり使わない表現や言い回しを多用しています。
ですので、私の過去作をよく読んで頂いている方ほどそう感じられるかもしれません。

> そんな雰囲気を崩さない、お約束のラスト。
> お約束とはいえ、それまでが息をのむほどの雰囲気だっただけに、
> 雰囲気にのみこまれている読み手に一息つかせるのには最適のラストだったと思います。

扱いとしてはほぼ「夢オチ」なので、どうかな、と思いつつ、
あれを現実にしてしまう訳にもいかないので、定番です。小鳥さん妄想くらい定番です。
ガッカリさせず、ホッとしてもらえれば幸いです。

書き終わった後、「アイドルマスター 真 ハカマ」で検索して出た動画を、
エンディングテーマとして置いて行きます。真のハカマグラデュエーションはカッコイイ!
http://www.nicovideo.jp/watch/sm7783106

No title

この話が現実だったら……雪歩はどこにつれていかれるのだろうと
この話がお芝居だったからこその安心感とはうらはらに
現実だったらの話の続きがとても気になりますね

真はよく色気うんぬんと言われますが、こういう雰囲気を醸し出したら
アイドルの中で一番色気を出せるアイドルですよね
男性的とか女性的とかそんなもの関係なく、色気ってこういうもの
なんだなと…… 相手が雪歩だからこそ出せる色気というのも
あるかもしれませんね 背中にぞくりと来ました

御礼。

> この話が現実だったら……雪歩はどこにつれていかれるのだろうと

その身と魂を分かたれて、肉は土に、魂は樹に――。

> 真はよく色気うんぬんと言われますが、こういう雰囲気を醸し出したら
> アイドルの中で一番色気を出せるアイドルですよね

そうですね。凛とした美しさ。芯のある色気。艶っぽさ。そんな感じです。

> 男性的とか女性的とかそんなもの関係なく、色気ってこういうもの
> なんだなと…… 相手が雪歩だからこそ出せる色気というのも
> あるかもしれませんね

過去名作がいくつもあるように、
この2人はとても良い対称だと感じます。
本当の意味で、お互いに憧れ、尊敬し合える存在ですから。

この映画は、相当の出来だと思いますよ。さぁ、リテイクだ!

> 背中にぞくりと来ました

嬉しいコメントです。このトリPの評価を持って、
『幻想』達成、という事で、どうぞよろしくお願いします。

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プロフィール

ガルシアP

Author:ガルシアP
◎レッガー=●カブキ=カブトワリ

twitterでは “ gar_cia_P ”。

SS書いてましたが、
動画も始めて3年経過。
こちら、デビュー作です。


360版からアイマス界に参加。
ゲームもCDも中の人達も、
ニコマスもSSも、大好き。

Web-:http://garciap.web.fc2.com/
mail:underkoverloverz◆gmail.com

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