『Under Kover Loverz』 第一章  蜘蛛の糸 - 02

 
 
      [ image scene ]


 男はゆっくりと受話器を置いて、電話を切った。
 真田優香の自殺により、事業計画が大きく狂うことになった。
 その点についての確認と説明を求められ、とりあえず急場をしのいだ格好だ。
 ――危ない橋を渡ってる。
 そんな自覚が、八代敬一にはあった。
 だがそれこそが彼にとって、芸能界に身を置くたった一つの理由だった。

 男は、そのスリルを心から愉しんでいた。




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      [ pre act ]


「美希、けっこうプロデューサーさん、タイプかも!」
 高木順一朗が所属アイドル達に彼を紹介した時、最初に口を開いたのが星井美希だった。
 美希は胸の前で両手を握り締め、輝くような笑顔を振りまく。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。よろしく」
「うん。よろしくね、プロデューサー!」
 星井美希はその場でぴょんと跳躍する。金色の長髪がフワリと跳ねた。




      [ Visual phase ] 01


 六本木通りと外苑西通りの交わる西麻布交差点。
 そこから南西へ約40m。一本路地を奥へ入った所――。
 明かりの灯る六本木ヒルズを見上げるその一画に、リアーヌプロが入るビルがあった。
 バブルの残滓ともいうような黒い大理石造りの外壁は、夜の闇に沈む巨大な墓標のようにも見える。
 その地上6階建てのビルの、3階と4階が、リアーヌプロのオフィスフロアだ。
「なんか陰気なカンジ」
 独り言を呟きながら、美希はビルの正面入り口から中へと入る。
 守衛に一度止められたが、八代敬一の名刺を見せ、杉下です、21時から面接の予定です、と伝えた。
 エントランスの守衛は、リアーヌプロダクションの人間ではなく、ビル警備会社の管轄だ。
 だからゲストの名前と出入りは確認するが、ゲスト到着の連絡まではしていない。
 リアーヌプロ側がセキュリティの為にと履歴書写真の確認などさせている訳も無く、結果、美希は潜入を果たす。
 エレベーターで5階まで上がり、非常階段で4階へ――。
 それが、プロデューサーの最初の指示だった。


 大江雄一は左の太腿の、焼け付くような痛みに耐えていた。
 真っ暗な部屋の中、椅子に縛り付けられたまま、顔に強い照明を当てられている。
 無精髭の先が溶けるのではないかという熱量だ。それに比例する光量のせいで、目も開けていられない。
 かろうじて分かるのは、目の前にいる悪魔が人間だったとしたら、女性なのだろう、というシルエット程度だった。
 男は脈動する左足の痛みから遠ざかりたい一心で、意識を少しでも体から離そうと、必死で五感を閉じる。
 パキッ。
 乾いた、木の割れる音がした。大江の意識が音により、力ずくで引き戻された。
「やめろ。どうせ何されても言わね――」
 女は今割った割り箸の1本を大江雄一の右太腿の中央に当てる。
 そして、ゆっくりと力を込めていった。
 割り箸がジーンズを押し裂き、布と同時に皮膚を穿つ。肉と血を巻き込みながら、箸は深く突き立てられる。
 肺を絞り上げるような男の叫びが、狭い室内に響いた。
「私は、『言うまで続けろ』という指示しか受けてないの」
 女はもう1本の割り箸を、今度は男の膝の上に当てた。
 女の顔が、小さく笑ったように見えた。

 大江は、この女――筒井美香――がまだ、本気を出していない事を知っている。
 探偵という仕事柄、リアーヌプロ保有戦力についての事前調査は入念に行っていた。
 彼女は“光の剣/クラウソラス”と呼ばれている。その能力は[物質硬化]。
 筒井美香がその気になれば、割り箸で大腿骨に穴を開けることくらい容易いのだ。
 もちろん、割り箸で膝の皿を割り、その先にある膝十字靭帯を断ち切る事も。
「あなたが持ち出そうとしたファイル、どこへやったの?」
 女は淡々と、5分前と同じ質問を口にした。
 ファイルがまだ、ビルから持ち出されていないという点には、確信をもっているらしい。
 だが、所在不明という状態は、一刻も早く解消したい手合いの物だ。
 逃げ切れないと悟った大江にとって、隠したファイルの位置だけが交渉材料だった。
 今ならまだ、歩ける。しかし、膝を壊されればそれまでだ。
 ――潮時、か。
 ふう、と大きく息を吐き、大江雄一は降参だ、と呟いた。
「ファイルの在り処を教える。だから、もう勘弁してくれ」
 一瞬、膝に押し当てられていた割り箸の先が離れた。
 ふぅ、と小さく息を吐き、筒井美香は残念ね、と呟いた。
「ファイルの在り処をどうしても教えないというなら、続行するだけよ」
「おい、待て――」
 箸の先が、強い圧力を伴って膝に当たる。
 それがゆっくりと押し出され、膝が悲鳴を上げた瞬間、部屋の明かりが点いた。
 大江の目に、最初に映ったのは、歪んだ笑顔の筒井美香の表情だった。
 そして、筒井美香の全身が見えた。
 Dance服に分類される細身のパンツと体のラインに沿ったジャケット。
 プロフィール上では169cmの身長が、黒いスペクトラガード製の衣装を着こなしている。
 狂気にも似た筒井美香の表情は、しかしすぐにアイドルらしい顔に戻される。
 そして女は、ダンススタジオの入り口の方へと視線を巡らせた。
「ねぇ、おじさんのファイルって、これでいいの?」
 振られていたのは茶色の大判封筒だった。
 遠目に見ても、間違いない。大江が命がけで奪取しようとした、リアーヌプロの内部資料だった。
 筒井美香が叫ぶ。
「お前、どうやってここへ!」
 敵と認識していた。
 ならば排除するのみ――二重にしていたベルトの外側の1本を外すと、それを大きく振る。
「『ストレイン・ハーディング』!」
 瞬間、薄い革のベルトから弾力と柔軟性の全てが消え、日本刀さながらの強力なブレードが完成する。
 対峙する金髪の少女は、天井に視線を走らせながら問いに答えた。
「んーとね、エレベーター?」

 大江雄一は知っていた。彼女の名前は星井美希。
 “囚われ猫/シュレディンガー”と呼ばれる、765プロ所属の『アイドル』だ――。

 


                                                       [ 続く ]

テーマ : アイドルマスター
ジャンル : ゲーム

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ガルシアP

Author:ガルシアP
◎レッガー=●カブキ=カブトワリ

twitterでは “ gar_cia_P ”。

SS書いてましたが、
動画も始めて3年経過。
こちら、デビュー作です。


360版からアイマス界に参加。
ゲームもCDも中の人達も、
ニコマスもSSも、大好き。

Web-:http://garciap.web.fc2.com/
mail:underkoverloverz◆gmail.com

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