スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『Cry Doll』

whiteA_small.png  ・01/28 テーマは「気力」「だます」「読書」「けが」





 私達は空虚で、軽い存在だ。

 だから、自分の隙間を何かで埋めようとする。

 それはエゴで、わがままで、時に他人を傷つける。

 
 


crydoll.png



 午前中のインタビューと、午後のレッスンの合間。
 ふっと空いてしまった空白の時間を、響は活字で埋める。
 ミステリ作家が書いた、掌編集。
 JALの機内誌で連載されていた作品群をまとめた一冊だ。
 分かりやすい話もあるし、ピンとこない話もある。
 それでも、いや、だからこそ、この本は何度も読んでいた。
 ――いつか、分かる日が来るのかもしれない。
 きっと、自分には何かが欠けているんだ。
 それは人として欠陥がある、という訳ではなくて。
 きっと、十数年しか生きていないからだ。
 自分達は、まだ若くて。
 十数年しか生きていないから、大人が主役の話は、難しいんだ。 
 ……いや、そうじゃないのかもしれない。


 午後の撮影には早すぎる時間。
 誰かがいたらどうしよう、と思いながら雪歩は静かにドアを開けた。
 象牙色のピーコートを入り口のハンガーに掛ける。
 紅いジャケットの袖を引っ張り、そっと左の手首を隠す。
 事務所のリビングスペースで、見慣れたポニーテールが揺れた。
 響ちゃん来てたんだ――雪歩は騒ぐ胸を落ち着けようと息を吐く。
 響の目の前には、ペットボトルに入ったコーラがある。
 雪歩はキャビネットから自分の湯呑みを出して、ポットの湯を注いだ。
 98℃で保温されていた熱湯を、ゆっくりと振り回しながら熱を取る。
 清水焼の枯れた色の急須と、桜皮の茶筒。
 中に入っているのは、宇治・上林三入の煎茶初雁。
 小さな茶盆にそれらを乗せて、雪歩は一度目をつむる。


「響ちゃん、おはよう」
「んぁ? ああ、雪歩。おはよー」


 響が、前髪の奥で一瞬、視線を上げた。
 その視線が、雪歩の手元を射抜く。


「あ、響ちゃんも飲む? これ、京都でしか買えないお茶なんだよ」
「ああ、後でもらおうかな」

 雪歩が、急須に茶葉を入れ、湯呑みの中の湯を急須に落とす。
 ふわり。
 一瞬、青い、甘い香りが辺りに漂った。

「自分はダメダメだ、とか言ってて悲しくならないか?」

 響の声に、雪歩は背骨を握られたような感覚になる。
 茶の最後の一滴までを湯呑みに落として、雪歩が小さく笑う。

「私も、『自分は完璧だからな』とか言ってみたいよ」



 ――多分、自分達は欠陥品なんだな。


 響が、呟くように言った。
 雪歩が、表情を失った。


 ――どういう事?


 響は、テーブルの上のペットボトルを口に当てた。
 黒褐色の液体が、響の喉を通って胃の中に沈む。


 自分達は、アイドルだから。
 普通の女の子が体験する事を全部放棄してるんだ。
 だから、普通の本を読んでも意味が分からない。
 それを受け止めるだけの、下地になる経験とか、感覚が足りないんだ。


 響は自分で噛み締めるように言う。
 その意味は、分かるようで、よく分からない。
 雪歩がそっと、湯のみに口を付けた。
 柔らかな香りが、口の中に流れ込む。


 私、UFOキャッチャーやった事ないなぁ。
 自分、水族館に行った事ないぞ。
 私、回るお寿司、食べた事ない。
 自分、チョコレートを手作りした事ないぞ。


 2人の言い合いはしばらく続く。
 自分達が、いかに年頃の女の子と違うか――そんな話だった。
 

「ねぇ、響ちゃん」
 雪歩が、響の分のお茶を淹れながら言った。
「そんな、大した事じゃないよね」
 言いながら、2人ともそう感じていた。
 まだ、トップアイドルという訳ではない。
 学校にも通えているし、お休みだってある。
 アイドル活動のせいで失っているものなんて、たかが知れていた。
「なぁ、雪歩。撮影何時までだ?」
「一応、16時予定だよ」
「ん……そっか」
 響は携帯を取り出すと、自分のスケジュールを確認する。
 時間は、そう遠くない。
「じゃ、一緒にUFOキャッチャーやって帰るか」
 響きの声に、雪歩は笑った。
「うわぁ、楽しみだなぁ。響ちゃん、上手そうだよね」
「任せろ。自分、完璧だからな!」


 ――あーあ、今日はボーカルレッスンかぁ。
 ため息混じりに響が立ち上がる。
 雪歩はソファに座ったまま、響に右手を振った。
「行ってらっしゃい」
 響は振り向くと、
「何か悩み事かあったら言えよな。絶対だぞ」
 そう言って、雪歩を睨む。
 雪歩は、誤解だよぉ、と言って左手を体の後ろに隠す。

 響の背中を見送りながら、雪歩は、ほっと息を吐いた。


 ほんのささいな戯れ。
 自分の存在価値を確かめる遊び。
 仲間との距離感を測る実験。


 雪歩は、もうやめよう、と反省しながら、
 左手の手首に巻いた包帯をほどき始めた。


 

テーマ : アイドルマスター
ジャンル : ゲーム

コメントの投稿

非公開コメント

検索フォーム

プロフィール

ガルシアP

Author:ガルシアP
◎レッガー=●カブキ=カブトワリ

twitterでは “ gar_cia_P ”。

SS書いてましたが、
動画も始めて3年経過。
こちら、デビュー作です。


360版からアイマス界に参加。
ゲームもCDも中の人達も、
ニコマスもSSも、大好き。

Web-:http://garciap.web.fc2.com/
mail:underkoverloverz◆gmail.com

最新記事
最新コメント
カテゴリ
リンク
ドミノ・ピザ最高!
ドミノ・ピザ【PC向けサイト】
アクセスカウンター
最新トラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。