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『企画』01 『@ClubNights』04

第二話 『子守唄のように』(前編)

第二話 『子守唄のように』(後編)


「プロデューサー、こちらの方は――?」
 その老人は、カウンターの一番奥の席に座ったまま、グラスを傾けていた。
 律子は、その老人の皺だらけの手から視線を移し、改めてプロデューサーに問いかける。
「ああ、紹介しよう。こちらは、この店のオーナーさんだ」
「この、お店の……?」
「こちらが今回出演させて頂くメンバーの1人、秋月律子です」
「秋月律子です。よろしくお願いいたします」
「よくお越し下さいました。少し、足が不自由でしてな。このまま失礼しますよ」
 椅子を回転させ、老人はその右手を差し出した。
 律子が内心の躊躇を表に出さずに右手を重ねると、老人は嬉しそうに微笑んだ。

 広い店だった。店の奥にはステージがあり、ボックス席がある。
 それとは別に、カウンターがある。マホガニー。厚い木のカウンターだ。
 ナイトクラブ、と言うのだろうか――律子は古い日本映画のワンシーンを思い出していた。
 この店のステージに、自分が立つという実感が、まだ湧かない。


「この街は、もうすっかり年老いておりましてね……」
 老人は、店内を見渡しながら語った。
 歴史のある街並みが、観光名所にもなっている、そんな街だ。
 お洒落な街、グルメの街、夜景のきれいな街――そんな街だ。
 プロデューサーは、素直な気持ちでそう伝えた。
 だが、それでもなお、老人は哀しそうに首を振りながら言葉を続けた。
「それでも残念ながら、街として成長していた時代とは違います」
 そう言いながらそっとグラスを傾ける老人の手は、深い皺だらけだった。
「そしてこの店も、もう役割を終えようとしています」

 細かくは、聞けなかった。
 ただ、その老人の寂しそうな、それでも充足感に満ちた笑顔が印象的で、
 だからこそ、その言葉の意味は、1つしか思い浮かばなかった。


「今回の企画のプロデューサーは、この店を気に入っていてくれてましてね」
 老人が、呟く様に、経緯を語り始めた。
 この店は、今年の年末でその歴史に幕を下ろす事になった。
 その噂は常連客の間で瞬く間に広がり、そして、その人物の知る所となったらしい。
「『何かできることはないか』と聞かれました」
 その時の事を、老人は確かに思い出していた。
「私は、『たった一夜でいいから、この店に似合う歌が欲しい』とお願いをしました」

「この店に似合う、歌ですか……」
 ――私に、歌えるだろうか?
 ――そもそも、私達で良いのだろうか?
 律子は思い悩む。
 迷いと、不安。戸惑い――それを打ち消して欲しくて、プロデューサーの顔を見る。
「大丈夫だよ。絶対に上手くいくさ」
 プロデューサーは微笑みを返す。
「お嬢さんや」
 老人の声。その目は優しく、そして真剣だった。
「あなたはあなたのプロデューサーを信じればよいのです。そして――」
 カラン。グラスの中で、氷が鳴った。
「私は、この企画のプロデューサーを信じます」


 老人の願いは、一夜の歌。
 去り行く者への『鎮魂歌』ではなく、
 休息の時を迎える者への、『子守唄』だった。


 老人の言葉と想い。
 この歴史を重ねた空間。
 プロデューサーの言葉と表情。

 必要なのは、何か。
 求められているものは、何か。

 あらゆる情報が、律子の中で分析され、組み立てられていく。
 期待に応えたい。願いを叶えたい。
 その為に、今の自分にできる事は――?
 その為に、12月4日までにできる事は――?

 できる。大丈夫。


 ――最高の、一夜を。


「素敵なステージを用意して頂き、ありがとうございます」
 律子は一歩進み出ると、改めて、右手を差し出した。
 老人がそっと差し出した右手を受け止め、さらに左手を重ね、両手で包んだ。
「いや、ステージを用意するのは企画プロデューサーなんだよ」
「そうかもしれません。でも――」
 老人の手はまだ充分に力強く、そして、温かかった。
「貴方が守り抜いたこのお店の空気と、積み重ねた歴史までが、私達のステージですから」


 ――律子は、『アイドルのプロ』なんだ。
 そんな、プロデューサーの言葉が聞こえた気がした。


                                                           【続く】




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※このストーリーは企画の公式ストーリーではなく、当ブログでのイメージSSです。
  また、他のブログに掲載されるSSと設定等で差異があります。ご了承下さい。




clubnights
 

テーマ : アイドルマスター
ジャンル : ゲーム

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No title

ちょっと待て! 画面がフライングセルフエコノミーモードなんだがどうすりゃいいんだ!

御礼。

他のClubNights企画参加ブロガーの皆様との違う切り口と考えた結果、
SS書くか、って結論で突っ走っているガルシアでございます。
「フライングセルフエコノミーモード」は、褒め言葉として受け取ってみますね。

今回、覚悟の決まった律子は、プロデューサーと共に事務所に戻ります。
「なんとしても、成功させたい」
心のどこかで “比較対象にされる” と不安に思っていた他のアイドル達が、
これからは “想いを一つにする仲間” へと変わります。
それぞれの想い。それぞれの願い。それぞれの希望。
そんな、光の粒にも似た輝きが、12月4日の夜を、彩るのです。

……え? コメントまでクドい?

この企画には色々な人が関わっていて、
色々な想いが詰まったイベントになるのだと思います。
そんな想いの結晶が、当日のお客様の心の琴線に届けば、
きっと素敵な思い出や記憶が甦る、素敵な夜になるのではないかと思います。

この設定は・・・実にいい。

年老いた店のオーナーの渋さ、過ぎた年月を感じさせる店の錆びた重厚さ。
ここで演奏される「子守唄」は、きっと最高の曲になるに違いない。

最後の律子の一言がまたカッコいいんだ!
腹を決めた、その決意の熱さを感じます。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

返礼。

>> LEM さん

アイドルマスターに出てくるアイドルって、それぞれ魅力があるんですが、
「私が!」って決意した瞬間って、一番カッコいいなと思います。
で、その決意の為の『トリガー』みたいなものが人それぞれ違っているんですよね。
仲間の危機だったり、プロデューサーの期待だったり、強力なライバルだったり――。
今回も、そういう空気が伝わっていたら、何よりです。

>> 匿名さん

貴ブログに非公開コメントを残してみました。
高木社長風に言うなら、「いいねぇ、どんどんやってくれたまえ」でございます。

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プロフィール

ガルシアP

Author:ガルシアP
◎レッガー=●カブキ=カブトワリ

twitterでは “ gar_cia_P ”。

SS書いてましたが、
動画も始めて3年経過。
こちら、デビュー作です。


360版からアイマス界に参加。
ゲームもCDも中の人達も、
ニコマスもSSも、大好き。

Web-:http://garciap.web.fc2.com/
mail:underkoverloverz◆gmail.com

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