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『二律背反のサクリファイス』 Aルート

『二律背反のサクリファイス』Aルートより




【A】<難しいわね。みんな可能性がありそうで>

      ◇        ◇        ◇        ◇        ◇

 事の発端は、昨日の朝のレッスン――。
 千早と真のデュオは、プロデューサーと一緒に早朝からダンスルームに入っていた。
「事務所の中にダンスルームがあるなんて、最高です!」
 真は新しくなった事務所の設備に大満足していた。そして、それは千早も一緒だった。
 現在765プロが使っているメインのレッスンスタジオは、事務所ビルの中にある。
「時間効率とセキュリティ面を考えると、それがベストだ」とは高木社長の言である。
 レッスンフロアに着き、動きやすいジャージに着替え終えた千早と真。
 しかし、プロデューサーは現れない。
 5分。10分。
 ストレッチで体をほぐしながらプロデューサーを待っていた2人も、さすがにおかしいと思い始めた。
「様子を見に、行ってみる?」
「そうね。何かあったのかしら」
 広さは大違いだが、このフロアには男性用のロッカールームもある。
 プロデューサーは、そこでスーツからスポーツウェアに着替えているはずだ。
 2人は足早に、男性用ロッカールームに向かう。
 ノック3回。返事は無い。
「プロデューサー? 開けますよー!」
「え!? あ、ちょっと待――」

 真が、ロッカールームのドアを開けた時、 プロデューサーは、なんとも言えない表情をしていた。
 ニヤけた顔を必死で真顔に戻そうとしていた為に、引きつったような顔になっている。
 その上、ロッカールームの入り口近くの大きな鏡に背中を向け、それに写った自分の姿を見ようと、
必死になって首をねじっていたものだから、ただでさえ微妙な表情が余計にゆがんでいた。
 そしてその原因も、一目で分かった。
 プロデューサーが着ている白いジャージの背中に、赤い、大きなハートマークが書かれていた。
「い、いやー、なんだろうな。今引っ張り出したらこんなになってて、困っちゃったなー、って」

 この気持ちを今あえて言葉にするなら……
 「なんかムカつく」……かな?

 その後のレッスンは壮絶なもので、プロデューサーが一つ指示を出す度に、
「意味が分かりません。もう少し分かりやすい表現をお願いします」
「ピンと来ないんで、ちょっと実際にやって見せてくださいよ」
 と、まるで薄氷を踏むようなレッスンだった。


      ◇        ◇        ◇        ◇        ◇

 問題は、実にシンプル。
 別にボクや千早がプロデューサーの事を好きだとか、そんな話じゃなくて。
 プロデューサーが正体不明の相手からラブコールされてるというのが迷惑なだけの話。
 正直、デレデレして、何か聞いても上の空で。
 あんな状態でプロデュースされ続けるのは迷惑。
 ただ、それだけの話。

 だから、私と真は相手を探し出そうとしている。
 いざとなれば直接、可能性のあるみんなに聞くまでだけれど。
 でも、恋愛感情が絡むのなら、事は穏便にした方がいい。
 勘違いだと分かれば、きっとプロデューサーも目を醒ますはずで、
 そうなれば、私達のプロデュースも今まで通り、しっかりしてくれるはずで。
 私が望むのは、それだけの話。それ以上じゃ、絶対ない。


      ◇        ◇        ◇        ◇        ◇

「緑…じゃ無いよね」
 真の声。

<可能性は薄いわね。ハートマークを書く姿がイメージできないわ>

 千早の指が、リズム良く携帯のキーを押す。

<春香なら、どう?>

「え!? 赤!?」
 驚いたような真の声が、事務所の中に響く。
「何、真? 突然声上げてどうしたの?」
 律子が顔を上げ、ディスプレイ越しに2人の様子を見る。
「あ、いやぁ――」
 真が口篭った瞬間、千早の指は一度メール作成画面を閉じ、着信音を鳴らした。
 ファイヤー、アイスストーム、とかわいらしい電子音声が響く。
「千早、上手いなぁと思って、つい」
 前髪をかき上げる真の姿を見て、律子も納得したようだった。
「すごい集中力ねぇ、千早は。さっきから黙々と……」
 律子は、千早に対しても、程々にしなさいね、と声を掛けてパソコンに向かう。
「分かってるわ。ただの時間つぶしよ」
 千早の声。律子はディスプレイの裏から右手だけを出して、親指を立てて見せた。

「そこに赤はどうかなぁ。普通はもっとストレートで行くんじゃない?」
 わざわざジャージの背中にハートマークを――?
 と、そこで、真はある事に気が付いた。
 そういえば、あの後プロデューサーはすぐに脱いでしまったけれど――。
 ジャージ素材に、あんなにキレイに赤く線を引けるものなんて、そうそう無い――。
「やっぱり紫だったんだよ」

<突然、断定するのね。根拠は?>

 真は少しの間考え込んだが、ふと顔を上げ、独り言のように呟いた。
「あーあ、早く春香来ないかなぁ。春香の使ってたリップ、すごく良かったんだよ。潤い感が」

<?>

 真は、少し『溜め』を作ってから千早に話を振った。
「千早も憶えてない? 春香のかわいい、ピンク色のリップ」

<なるほど>

「どこの新作か、聞き忘れちゃったんだよね。この前」

<確かに。春香の口紅とは違うわね。あの赤は、そう、あずささんの口紅の色に似てる> 

 千早はその打ち込みを最後に携帯を折り畳むと、それをジャケットのポケットに落とした。
「どうするの?」
 ソファから立ち上がる千早の後を追いながら、真が聞いた。
「確認よ。確認」
 千早は、事務所のデスクで雑誌を読んでいるあずさに向かって歩く。

 どうする、という事も無い。
 事実関係がハッキリしてくれさえすれば、それでいい。
 仮にあずささんがプロデューサーにアプローチをしたとして、私とは無関係。
 ただ、プロデューサーが大人の対応をしてくれさえすれば、それでいい。
 もちろん、所属アイドルと事務所プロデューサーの恋愛なんて、非常識だ。
 大人なら、そのくらい分かりそうなもので、レッスン中にニヤニヤしてる場合じゃない。
 そうよ。私達とトップアイドルを目指すって、言ったくせに!

「あずささん、ちょっといいですか?」
「あら、何かしら?」
 あずさは所々にチェックを入れながら読んでいたグルメ雑誌をゆっくり閉じた。
 手に持っていたペンを、ニットの胸ポケットに差し込み、千早に向かって姿勢を正す。
 その雰囲気がいかにも大人の女性の余裕のようで、千早は少し、胸が痛んだ。
「少し、お伺いしたい事が」
「いいわよー。なんでも聞いて。千早ちゃん」
「では、会議室に来て頂けますか?」
 そう言って、千早はあずさに背を向けた。
「どうしたの、千早ちゃん。なんだか深刻な雰囲気だけど……」
 あずさは少し不安げな表情になる。
 そして、そんな千早とあずさを見て、律子が慌てて声を上げた。
「ちょっと、千早! 待ちなさい」
「あぁ、大丈夫。別に変な話じゃないんだ」
 椅子から立ち上がり、2人を追おうとする律子を真が止める。
「ボクも行くから。大丈夫、心配しないで」
「いや、そういう心配してるんじゃなくて――」
 律子が一瞬考え、そして、諦めたかのように一度、息を吐いた。
「まぁ、私がかばう道理も無いのよね」

 あずささんは、背中越しに色々と語りかけてきたが、
「会議室で」
 と、全て先送りにさせてもらった。
 私は私で、実は、どう切り出そうかと思案していた。
 おそらく、回りくどく言っても上手く伝わらないのがオチだから、ストレートが一番だ。
 あずささん、もしかしてプロデューサーの事が――?

 Q:なぜ、私がそれをあずささんに聞くのか?
 A:私を担当するプロデューサーの調子がおかしいと、レッスンが非効率的だから。

 おかしくない。
 実に自然な理由だ。
「10分程で、済みますから」
 そう言って、会議室のドアを開けた千早――の、目に映ったものは、床に散乱する大量の紙だった。
「これは、一体……」
 あずさと千早が、そのうちの1枚を拾い上げてみる。
 そこには赤いサインペンでびっしりと、大量のハートマークが書かれていた。
「ち、千早ちゃん!?」
 ピンク色に染まって見える大量の紙束の中に、小鳥さんの真っ赤な顔があった。


      ◇        ◇        ◇        ◇        ◇

「『バタフライ・エフェクト』ですか?」
 小鳥の言葉を繰り返す。どうも、その言葉を知った事が、全ての発端だったらしい。
「あまり詳しくないのですが、それはどういう話なんですか?」
「そうね。簡単に言うと、一見、何の関連性もない小さな出来事が、後の大きな出来事の 引き金になる、
 という理論だと思ってくれたらいいわ」
 そんな話が、得意げに小鳥の口から語られる。
「で、それとこのハートマークに、どんな関係が?」
 全く話が見えない様子の千早に、小鳥が熱く語り始める。
「いい、千早ちゃん。女の子はね、恋をするとキレイになるのよ!」
「……確かに、よく聞くフレーズではありますが」
「そして、『病は気から』と、昔から良く言うじゃない?」
「精神が肉体に影響を与える事は、理解できます」
 千早が頷きながら答えると、小鳥も満足げに頷いた。
「だとするとね、恋の病だって気持ち次第。つまり、恋愛してる気持ちにさえなれば、体も恋愛準備OK!
 その瞬間から、私はどんどんキレイになって、モテカワ愛され体質になる、って事なのよ!」
「な、なんだってー」
 部屋に入るなり、呆れたように律子が棒読みで言った。
 見ないでおいてあげてほしかったんだけどね、という律子の声もスルーして、小鳥演説は続く。
「つまり、こうしてハートを連ねることで、私はみるみるキレイになるの。つまり、このハートのうちの
 どれか一つが、幸せな恋愛を運んでくるのよ! これこそが、『愛のバタフライ・エフェクト』!」 
 正しい意味を知っている律子は言うに及ばず、詳しくは知らない千早と真も、少し引いていた。
 きっと、この解釈は8割の願望と2割の現実逃避だ――。
「じゃぁ、まさか、プロデューサーのジャージにハートを書いたのも?」
「ええ。ちょっと冒険してみたわ!」
 深いため息とグッタリ感が、会議室全体を支配していた。
 と、そこで千早は我に返る。
 まったくもって、あずさは無関係だった。
 謝るべき? それとも、別の話題で誤魔化してしまおうか。
 必死になって考えながら、あずさの方を振り返る。
 そこには、胸ポケットから取り出したサインペンで、紙にハートを書き連ねるあずさの姿があった。

 結局、小鳥さんがプロデューサーに好意を寄せているかというとそうではなく。
 プロデューサーもハートの主が小鳥さんと知るや、「あー、そっか……」と呟くだけだった。
 こうして私達の効率的なレッスンは元通りとなる――はずだったのだけれど。

「はぁー」
 プロデューサーのため息がひとつ。
「何ですか、プロデューサー。まだ何か?」
 呆れたように、千早が言う。真も、少し苛立たしげに歩み寄る。
「ご、ごめん。でもあのハート、ちょっと期待しちゃったんだよなぁ」
 プロデューサーが立ち上がる。そして、2人の顔を見ながら言った。
「あれ、千早か真が書いてくれたんだと思っちゃっててさ。なんか、こう、ついに俺の想いが届いたか! って」
 プロデューサーが大きく両手を広げ、まるで熱血教師モノのドラマのようなジェスチャーをする。
 その瞬間、千早は真っ赤になって顔を伏せ、真は目を輝かせて拳を握った。
「意味が分かりません。もう少し分かりやすい表現をお願いします」
「ピンと来ないんで、ちょっと実際にやって見せてくださいよ」

 その日も、まるで、薄氷を踏むようなレッスンだった。

                                                             【END】
 

テーマ : アイドルマスター
ジャンル : ゲーム

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ガルシアP

Author:ガルシアP
◎レッガー=●カブキ=カブトワリ

twitterでは “ gar_cia_P ”。

SS書いてましたが、
動画も始めて3年経過。
こちら、デビュー作です。


360版からアイマス界に参加。
ゲームもCDも中の人達も、
ニコマスもSSも、大好き。

Web-:http://garciap.web.fc2.com/
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